大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)2600号 判決

主文

一  本件訴えのうち、原告らと被告らとの間において、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、亡甲の遺産であることの確認を求める部分を却下する。

二1  被告Yは、被告乙に対し、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告愛知県は、本項1の抹消登記手続に同意せよ。

3  被告Cは、本項1のうち、別紙物件目録一ないし三記載の各土地の共有持分四分の一についての抹消登記手続に同意せよ。

三  原告X1と被告らとの間において、別紙物件目録一三記載の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、原告X1の所有であることを確認する。

四1  被告Yは、被告乙に対し、別紙物件目録一三記載の土地の共有持分四分の一につき名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告愛知県及び被告Cは、本項1の抹消登記手続に同意せよ。

3  被告乙は、原告X1に対し、別紙物件目録一三記載の土地につき名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五三八号の所有権移転登記を、錯誤を原因として、名古屋市d区ef丁目g番地、X1の単独所有とする更正登記手続をせよ。

五1  原告X2と被告Y、被告乙、被告愛知県との間において、別紙物件目録一四記載の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、原告X2の所有であることを確認する。

2  本件訴えのうち、原告X2の被告Cに対する、別紙物件目録一四記載の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、原告X2の所有であることの確認を求める部分を却下する。

六1  被告Yは、被告乙に対し、別紙物件目録一四記載の土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告愛知県は、本項1の抹消登記手続に同意せよ。

3  被告乙は、原告X2に対し、別紙物件目録一四記載の土地につき名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五三八号の所有権移転登記を、錯誤を原因として、名古屋市d区hi丁目j番地、X2の単独所有とする更正登記手続をせよ。

七  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らと被告らとの間において、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、亡甲の遺産であることを確認する。

2  主文二ないし四、六項同旨

3  原告X2と被告らとの間において、別紙物件目録一四記載の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が、原告X2の所有であることを確認する。

4  (予備的請求1)

(一) 被告乙が被告Yに対し、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の被告乙の持分四分の一につき、平成五年一月一八日なした代物弁済を取り消す。

(二) 被告Yは、被告乙に対し、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

(三) 被告愛知県及び被告Cは、本項(二)の抹消登記手続に同意せよ。

5  (予備的請求2)

(一) 被告Yは、被告乙に対し、別紙物件目録一ないし四、七ないし一二記載の各土地の共有持分四分の一につき、被告乙が別紙被相続人目録記載の被相続人の相続欠格者となったことを条件として、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二) 被告愛知県及び被告Cは、本項(一)の抹消登記手続に同意せよ。

6  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら全員)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告Y)

原告らの予備的請求2を却下する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡甲(以下「甲」という。)は、別紙物件目録一ないし四、七ないし一四記載の各土地を所有していた(以下「本件各土地」といい、各土地は各番号で特定する。)。

2(一)  甲は、平成五年一月一八日に死亡し、本件一ないし一二の各土地を、原告X1(以下「原告X1」という。)、原告X2(以下「原告X2」という。)及び被告乙(以下「被告乙」という。)並びに丙が共同相続したが、未だ遺産分割はなされていない。

(二)  名古屋法務局所属公証人辻下文雄が平成四年一二月二五日に作成した遺言者甲の平成四年第一六七五号公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)により、原告X1が本件一三の土地を、原告X2が本件一四の土地を、それぞれ相続して所有権を取得した。

(三)  しかるに、被告らは、後記3ないし5のとおり本件各土地に登記を行い、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の被告Y(以下「被告Y」という。)名義の共有持分四分の一が亡甲の遺産であること、並びに、原告X1が本件一三の土地を、及び原告X2が本件一四の土地をそれぞれ所有権取得したことを争っている。

3  本件各土地には、平成五年一月二五日受付第一五三八号をもって、同年一月一八日相続を原因として、原告X1、原告X2、丙及び被告乙の各持分を四分の一とする所有権移転登記が経由された。

4  本件各土地には、平成五年一月二五日受付第一五四〇号をもって、被告Yに対し、同年一月一八日代物弁済を原因とする被告乙持分全部移転登記が経由された。

5  さらに、本件一ないし三及び一三の各土地の被告Y持分四分の一につき、平成五年三月四日受付第四五〇七号をもって、債権者を被告C(以下「被告C」という。)、債務者を被告Yとする名古屋地方裁判所仮処分命令を原因として被告Y持分処分禁止仮処分登記が、また、本件各土地の被告Y持分四分の一につき、平成五年八月二六日受付第二〇六六六号をもって、同年八月二五日愛知県新栄県税事務所差押えを原因とする被告Y持分差押登記が、それぞれ経由された。

6  本件遺言には遺言執行者が指定されていたから、本件一三及び一四の各土地につき、被告乙によってなされた原告両名、丙及び被告乙への相続登記、並びに被告乙の持分四分の一の被告Yに対する代物弁済は、民法一〇一三条に違反し、無効である。

7  また、右4の被告Yに対する被告乙の持分全部の代物弁済は、次のとおり無効であるから、本件一ないし四、七ないし一二の各土地にそれぞれ四分の一の法定相続分を有する原告らは、右各土地につき、共有持分権に基づく保存行為として、被告Yに対し、無効な登記の抹消を請求できる。

(一) 被告乙の被告Yに対する代物弁済契約の原因債権とされる二億五〇〇〇万円の貸金債権は、不存在ないし無効であるから、本件代物弁済契約は、無効である。

(二) 被告乙の被告Yに対する代物弁済契約は、通謀虚偽表示であり無効である。

(三) 仮に被告乙の被告Yに対する貸金債務があるとしても、せいぜい二九〇〇万円ないし三五〇〇万円であるところ、このような金額の原因債権に対して、平成五年一月時点で約九億円もの価値を有していた本件各土地の被告乙の共有持分を取得するとの本件代物弁済契約は、暴利行為として公序良俗に反し無効である。

8  仮に右6、7が認められないとしても、

(一) 原告両名、丙及び被告乙は、甲の死亡により、相続税として元金総額二〇億四四二二万七六〇〇円の連帯納付義務を負担することになり、原告らは、被告乙に対し、右総額の四分の一相当額及びこれに対する平成五年一一月二日以降の延滞税額につき、事前求償権を取得した。

(二) ところが、被告乙は、これといっためぼしい資産もなく、原告らの利益を害することを知りながら被告Yに対して本件代物弁済をしたものであるから、原告らは、予備的に詐害行為取消権に基づき、右代物弁済契約の取消及び右持分移転登記の抹消を求める。

(三) 仮に右(一)、(二)が認められないとしても、被告乙は、共犯者らと共謀の上、被相続人である甲を殺害し、懲役刑の有罪判決を受け、現在、上告審継続中である。

右上告が棄却されると、被告乙は、民法八九一条一号により相続欠格者となり、被告Yは、無権利者から共有持分権移転を受けたことになり、その登記は無効となる。

9  よって、原告らは、被告らに対し、主位的に本件各土地の所有権ないし共有持分権に基づき、請求の趣旨1ないし3記載の、予備的に詐害行為取消権に基づき、また被告乙が相続欠格者になることを条件として、請求の趣旨4、5記載の各裁判を求める。

二  請求原因に対する認否、被告らの主張

1  (被告Y)

(一) 請求原因1ないし5は認める。

(二) 同6、7は否認する。被告Yは、被告乙に対し債権を有していた。

原告らは、本件一ないし四、七ないし一二の各土地につき、被告乙を権利者とし、被告Yを義務者とする登記請求権を第三者として請求するというもので、原告らは、右各土地につき登記請求を行う所有権も債権も有しない。したがって、原告らの原因債権の不存在、通謀虚偽表示ないし公序良俗違反を理由とする本件登記手続請求は、主張自体失当である。

(三) 同8は否認する。詐害行為取消権の成立要件として、被保全権利は詐害と目される行為がなされる以前に発生したものであることを要するところ、原告らの主張する債権は、原告らが詐害と目している行為の発生後のものである。また、事前求償権は、民法上の受託に基づく保証債務についてのみ認められるものである。民法上の連帯保証人の事前求償権を、納税の連帯納付義務につき認めることはできない。

原告らは、民法上の受託に基づく保証人でないばかりか、未だに連帯相続人としての納税の連帯納付義務を履行していない。したがって、原告らは、詐害行為取消権を行使することができない。

(四) 原告らの予備的請求2は、請求の基礎に同一性がないので追加的併合は許されず不適法である。また、将来請求の部分には民事訴訟法一三五条が規定する必要性が存しないから、却下されるべきである。

2  (被告乙)

請求原因1、2(一)、3ないし5、8(一)のうち、被告乙が相続税の連帯納付義務を負っていることは認め、同6、7、8(二)は否認する。

3  (被告愛知県)

請求原因1、2(一)、3ないし5、8(二)のうち、被告乙が被告Yに対し、代物弁済した事実は認め、同2(二)、8(一)は不知。

4  (被告C)

請求原因3につき、登記が経由されている事実、同4、5につき、被告愛知県の登記を除く事実は認め、同1、2(一)、(二)、8は不知。

三  被告らの抗弁

1  (被告Y)

被告Yは、被告乙に対し、平成四年三月二二日、元本二億五〇〇〇万円を貸し付け、右貸付債権及び右同日から同五年一月一八日までの利息三〇〇〇万円の債権を有していたので、同五年一月一八日、被告乙との間で、本件各土地の被告乙持分全部につき、代物弁済契約を締結した。

2  (被告愛知県)

被告愛知県は、被告Yに対し有する不動産取得税の租税債権につき、地方税法七三条の三六第一項一号に基づき、本件各土地の被告Y所有持分を有効に差し押さえた。

仮に被告乙と被告Yとの間の代物弁済に基づく被告乙持分全部移転につき、通謀虚偽表示または詐害行為取消権が成立し、無効または取り消し得べきものであったとしても、被告愛知県は、登記簿を基に被告Y持分と認定したのであり、民法九四条二項にいう善意の第三者、または、同法四二四条一項但書にいう善意の転得者に該当する。

3  (被告C)

被告Cは、被告乙に対し、平成元年七月に八〇〇〇万円を貸し付け、右貸金及びこれに対する平成四年一二月一日から支払済みまで年三割の割合による債権を有する。そのため、被告Cは、被告乙の債権者として、被告乙から本件一ないし三及び一三の各土地の持分四分の一につき移転登記を受けた被告Yに対し、将来、被告Yに対する右移転登記の抹消を求めるため、処分禁止の仮処分をした。

四  抗弁に対する原告らの認否及び主張

1  いずれも否認する。

2  被告愛知県の差押にかかる租税債権は、被告乙から被告Yに、本件各土地の被告乙持分全部移転登記がなされたことによる不動産取得税分である。したがって右持分移転が無効であるから、右不動産取得税も発生しなかったことになるから、被告愛知県は、民法九四条二項にいう善意の第三者、または、同法四二四条一項但書にいう善意の転得者に該当しない。

第三  証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりである。

理由

第一  遺産確認の訴えについて

共同相続人間における遺産確認の訴えは、固有必要的共同訴訟であると解すべきである(最高裁平成元年三月二八日判決・民集四三巻三号一六七頁参照)。

これを本件についてみるに、甲の法定相続人である原告らは、本訴で、甲の遺産確認の訴えにつき、法定相続人である乙を被告としているが、他の法定相続人である丙を被告としていない。

したがって、本訴のうち、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の被告Y名義の持分が、亡甲の遺産であることの確認を求める部分は、不適法である。

第二  事実経過、及び所有権確認請求について

一  各当事者間に争いのない事実、甲第一ないし一六号証、第一九号証の一、二、第二〇号証、被告乙、被告Y各本人尋問の結果、及び後記各証拠、並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

1  被告乙(昭和二二年生)は、昭和五七年ころから、姉丙の夫のDと共にaの商号で運送業を始めた。被告乙は、そのころ、Dの紹介で被告Y(昭和二一年生)と知り合った。被告Yは、いわゆる暴力団kの副会長で、Dとは学校の先輩、後輩の関係にあった。

昭和五八年、b株式会社(以下「b」という。)がaの営業を引き継ぎ、Dが同社の代表取締役、被告乙が取締役になった。

2  被告乙は、昭和五九年ころから、生活が乱れて借金を作り、同六〇年ころ、bを辞めて、フィリピン人女性の人材派遣業を始め、平成元年一二月、被告Yに六五〇〇万円を貸し付けた。被告Yは、右借金を同四年までに返済した。

被告乙は、平成元年、賭博等による多額の借金を、父甲に依頼して清算し、その後、Dが経営するbに戻った。

平成二年当時、バブル経済の影響で、甲が所有する土地の時価は合計約一〇〇億円に昇った。

3  被告Cは、平成元年七月、被告乙に対し、八〇〇〇万円を貸し付けた(丁第一号証)。なお、被告Cは、いわゆる暴力団lのm組長と兄弟である。

また、平成二年二月ころ、被告Yが被告乙に対し、借金の返済資金として三五〇〇万円を貸付けた。

4  被告乙は、平成四年二、三月ころ、被告Yに連れられて、名古屋市緑区の鯖戸司法書士事務所へ行き、父甲死亡の際、兄弟四人で遺産を四分の一ずつ相続し、そのうち、被告乙の持分を借金の代物弁済として、被告Y名義へ登記するため、契約書類の準備をした。

5  平成四年一二月二五日、甲が、本件一三の土地を原告X1(昭和五年生)に、本件一四の土地を原告X2(昭和二六年生)に相続させ、遺言執行者として弁護人吉田允を指定する旨の公正証書遺言(甲第一六号証)を作成した。

6  平成五年一月一八日、甲(明治三八年二月二〇日生)が殺害され、甲及び原告X2が居住する名古屋市d区hi丁目n番地の居宅が放火された。

その結果、原告らに二〇億円余の相続税債務が発生した。

7  被告Yは、その後、平成五年一月一八日付代物弁済契約証書(乙第一号証、以下「本件代物弁済契約証書」という。)に被告乙の了解を得ることなく債権額等を記入して、被告乙に対し、登記手続を行わないなら被告乙が甲殺害の犯人であるなどと強く申し向けて、被告乙をして、同月二五日付で、本件各土地に、同月一八日相続を原因として、原告X1、原告X2、丙及び被告乙の各持分を四分の一とする所有権移転登記を行わせ、さらに同月二五日付で、被告Yに対し、同月一八日代物弁済を原因とする被告乙持分全部移転登記を行った。なお、当時の本件各土地の被告乙持分の時価合計は約九億円であった。

8  被告Cは、平成四年一一月三〇日現在、被告乙に対し、八〇〇〇万円の貸付金債権を有していたが、同五年一月二五日、本件各土地につき被告乙らに相続登記がなされ、本件一ないし三及び一三の各土地の被告乙持分全部が、さらに被告Yへ移転登記されたのを知った(丁第二ないし四号証)。そのため、被告Cは、被告乙の債権者として、被告乙から右のとおり持分全部移転登記を受けた被告Yに対し、将来、本件一ないし三及び一三の各土地についての被告Yへの右持分全部移転登記の抹消登記請求権の実行を保全するため、同年三月三日処分禁止の仮処分決定を得て、同月四日右各土地の被告Y持分につき、処分禁止仮処分登記を行った(丁第五号証)。

また、被告愛知県は、平成五年八月二五日、本件各土地の被告Y持分につき、被告乙から被告Yへ持分全部移転登記がされたことにより被告Yに生じることとなる不動産取得税分につき差押登記を行った。

9  平成六年一月二五日、被告乙が、甲に対する殺人及び現住建造物等放火罪の容疑で、フィリピン人二名と共に逮捕された。

平成七年五月、甲の殺害実行犯であるフィリピン人に懲役一五年の判決が宣告され、同九年一一月に、全面否認していた被告乙に無期懲役の判決が宣告され、同一〇年一一月、控訴棄却となった(甲第一七号証の一ないし四、第二一、二二号証)。

二  本件一三、一四の各土地についての所有権確認請求について

以上の事実によると、原告と各被告らの間において、請求原因1ないし5の事実(ただし、請求原因2(三)のうち、被告Cが原告X2に対し、本件一四の土地の所有権取得を争っている事実は除く。)をいずれも認めることができる。

そうすると、請求原因6のとおり、本件遺言には遺言執行者が指定されていたから、本件一三及び一四の各土地についての被告乙らへの相続登記、及び被告乙持分四分の一の被告Yに対する代物弁済は、民法一〇一三条に違反して無効である。

したがって、原告X1の被告らに対する本件一三の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が同原告の所有であることの確認請求、及び、原告X2の被告Y、被告乙、被告愛知県に対する本件一四の土地の被告Y名義の共有持分四分の一が同原告の所有であることの確認請求は、いずれも理由がある。

これに対し、被告Cは、本件一四の土地の被告Y名義の持分につき仮処分登記を行ってなく、原告X2に対し、本件一四の土地の所有権取得を争っていない。よって、原告X2の被告Cに対する、右土地の被告Y名義の持分が同原告の所有であることの確認請求は、確認の利益が認められない。

第三  被告Y及び被告乙に対する各請求について

一  前記第二の事実によると、原告X1の本件一三の土地についての、原告X2の本件一四の土地についての、被告Yに対する各抹消登記手続請求及び被告乙に対する各更正登記手続請求は、いずれも理由がある。

二1  前記第二の事実によると、本件代物弁済契約証書(乙第一号証)は、被告乙が、平成二年二月ころ被告Yから借受けていた三五〇〇万円の債務につき、甲が死亡した際の相続財産に対する被告乙の持分を担保とする趣旨で、同四年二、三月ころ、貸付日欄、元本及び利息の各金額欄を白地で作成したものと認められる。

そうすると、本件代物弁済契約は、右三五〇〇万円の貸付債権を原因債権とするものであるから、原因債権の不存在ないし無効を原因として、本件代物弁済契約の無効を主張する原告らの請求原因7(一)は、理由がない。

2  しかし、前記事実によると、被告Yが、その後、被告乙の了解を得ずに、本件代物弁済契約証書の右白地部分を補充したものであって、被告乙としては、平成五年一月一八日に、「平成四年三月二二日」に「元本二億五〇〇〇万円」及び右同日から「平成五年一月一八日」までの利息「三〇〇〇万円」の債務の弁済に代えて、本件各土地の被告乙持分の所有権を、被告Yに実際に移転する意思は無かったが、債権者である被告Yに強く登記手続を求められたため、右証書(乙第一号証)を用いて、実体に反して登記簿上のみ形式的に移転登記手続を行うことを了承したものと認めることができる。

そうすると、請求原因7(二)のとおり、被告乙は平成五年一月一八日、被告Yと通謀して、実際には代物弁済契約を締結する意思がないのに、外形上、本件代物弁済契約を締結したと認められるから、被告Yへの本件各土地の被告乙持分全部移転登記の原因である本件代物弁済契約は、右被告両名の通謀虚偽表示により無効である。他に、本件代物弁済契約の有効な成立を認めるに足りる的確な立証はない。

三1  これに対し、被告Yは、本件代物弁済契約の原因債権として、被告乙に対し、平成四年三月二二日、元本二億五〇〇〇万円を貸し付け、右貸付債権及び右同日から同五年一月一八日までの利息三〇〇〇万円の債権を有していたと主張し、陳述書(乙第二号証)及び本人尋問においてその旨供述する。

しかし、被告乙は、被告Yから借受けたのは、平成二年の三五〇〇万円のみであると証言する。さらに、本件代物弁済契約証書(乙第一号証)に既存債務として記載された平成四年三月二二日付金銭消費貸借契約書について、被告Yは、右証書(乙第一号証)作成時に同時に作ったと主張するが、その後廃棄したとして証拠として提出せず、また、貸付元本とされる二億五〇〇〇万円の明確な内容、金銭の実際の授受等について客観的な裏付証拠を提出していない。したがって、前記認定に反する被告Yの陳述書及び本人尋問の結果部分は、採用できない。乙第三号証の一、二によっても、右認定は左右されない。

2  そうすると仮に、被告Yと被告乙の間で、平成五年一月一八日、本件代物弁済契約が通謀虚偽表示ではなく、有効に成立したとしても、前示のとおり、被告乙の被告Yに対する貸金債務は三五〇〇万円であるのに、代物弁済契約書上は二億五〇〇〇万円の貸付債権とされていることや、代物弁済された本件各土地の被告乙持分の時価が約九億円であったことから、本件代物弁済契約は、暴利行為と認められる。

さらに、前示のとおり、被告乙が借金返済のため遺産を取得しようとしてフィリピン人と共謀して甲を殺害し、被告Yが甲の死亡に関して被告乙に強く迫って本件各土地の被告乙持分全部移転登記を行った事情も認められる。

これらを総合考慮すると、本件代物弁済契約は、請求原因7(三)のとおり、公序良俗に反して無効であると認めるのが相当である。

四  以上によると、被告乙の被告Yに対する本件代物弁済契約は、通謀虚偽表示により無効であり、仮にそうでないとしても、公序良俗に反して無効であるから、原告らの本件一ないし四、七ないし一二の各土地の所有権ないし共有持分権に基づく、被告Y及び被告乙に対する主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がある。

被告Yは、原告らには右各土地につき抹消登記請求権がないと主張する。しかし原告らは、右各土地の共有持分権に基づく保存行為として、無効な登記を有する被告Yに対し、抹消登記請求を行うことができると解されるから、被告Yの右主張は理由がない。

したがって、原告らの被告Y及び被告乙に対する予備的請求については、判断しない。なお、原告らの予備的請求2は、原告らの当初の請求と請求の基礎に同一性が認められるから、予備的請求2の追加的併合が認められないとする被告Yの主張は採用できない。

第四  被告C及び被告愛知県に対する各承諾請求について

一  被告愛知県の差押にかかる租税債権は、被告乙から被告Yに、本件各土地の被告乙持分全部移転登記がなされたことにより被告Yに生じる不動産取得税分であるところ、前示のとおり、右持分移転は無効であるから、被告愛知県主張の不動産取得税も発生しなかったことになる。

したがって、被告愛知県は、民法九四条二項にいう善意の第三者、または、同法四二四条一項但書にいう善意の転得者に該当しないから、原告らの被告Yに対する右持分全部移転登記の抹消登記手続請求に承諾する義務がある。

二  被告Cは、被告乙の債権者として、被告Yへの、本件一ないし三及び一三の各土地の被告乙持分全部移転は無効であると主張して、右移転登記の抹消登記請求権を保全するため、被告Y持分に対し処分禁止仮処分登記を行ったものであるところ、前示のとおり、被告乙から被告Yへの右各土地の持分全部移転登記は登記原因を欠き無効である。

したがって、被告Cは、原告らの被告Yに対する右持分全部移転登記の抹消登記手続請求に承諾する義務がある。

三  以上によると、原告らの被告愛知県及び被告Cに対する各承諾請求はいずれも理由がある。

第五  結論

よって、本件訴えのうち、原告らの被告らに対する本件一ないし四、七ないし一二の各土地の被告Y名義の持分が亡甲の遺産であることの確認を求める部分、及び原告X2の被告Cに対する本件一四の土地の被告Y名義の持分が同原告の所有であることの確認を求める部分を却下し、原告らの被告らに対するその余の主位的請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙物件目録及び被相続人目録は省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例